2018年07月31日  筒井保博(PHR協会理事):PHR協会講演会雑感

 PHR協会は個人が必要と思う個人健康情報(PHR)を蓄積・管理、取捨選択するのを助ける事を目的としている。そのためPHRの対象となり得る情報は母子手帳情報・各段階での健診情報や医療情報、介護情報など多岐にわたり、これらの個人健康情報を個人で管理できる社会的仕組みを構築して、個人が責任を持って運用できれば、個人の生き甲斐や健康増進に結びつくものと考えられている。
 PHRはpersonal, health, record という個人、健康、記録の3つのキーワードからなる。いずれも概念的な言葉であるがゆえに様々な解釈が生まれる。まず個は全体と対比して初めて明確になる。つまり個を理解するためには全体の理解が不可欠であるし、その逆も同様である。健康もまた病気と対比される。健康を維持増進するために病気を予防し、治療する。記録はさらに複雑である。情報は人を自由にし、また拘束する。同じ情報でも、その価値は人によって大きく変わり、客観的に正しい情報を単に持っているだけで有効に活用できなければ意味が無い。従って「個人が必要と思う個人健康情報がPHR」と定義した場合、本当に必要なものを必要と個人に認識してもらうためには教育も必要となる。

 さて、今回の各講師の講演は、いずれも健康情報に関する考え方、利用方法について異なる立場からわかりやすく解説されていた。一方でPHRの解釈が立場の違いで大きく異なり、PHRの概念をすでにお持ちの方にはインパクトがあったと思われる。
 そこで今回の講演からPHRの「個と全体」に絞り、異なる方向性を明確に打ち出された3人の先生方の講演について私の所感を述べさせて頂きたい。

 まず山田参事官は行政の立場で、日本の将来という大きな観点から個々の記録よりも全体の傾向を掴む事の大切さを述べられた。そして全体を把握するためには個々の記録が漏れなく継続する事が重要であり、文字通りゆりかごから墓場まで、個人の一生の健康情報を記録・保管し、蓄積して統計学的に利用できる必要性について具体的に言及された。現在既に行政側で把握できる母子手帳、学校健診、健保の疾病情報、特定健診、および介護情報等に唯一不足する個人健康情報、すなわち職域における健診情報が加わって初めて完全に継続する個人健康情報が構築できる。

 一方、織田進先生は、もと臨床医として、また現在は地域の産業保健を指導的立場で牽引されている立場から、個人が自身の医療情報を常に携行あるいはクラウド等からダウンロードし、医療の現場で有効に使う事が両立支援を含む疾病管理や疾病予防にいかに有益であるか、ITデバイスを使った例などを用いて講演された。この発表はPHRを個人の健康管理に活用するという、PHR協会が主張する理念に最も近いと思われる。

 宮本俊明先生は大企業の産業保健現場における永年の経験から、職域における健診情報の特殊性などについて話しをされた。元気な労働者の健診データは長期間ほとんど変化しないものだが、ある年齢から少しずつ変化が始まり、それが将来の疾病リスクに繋がっていく。そのリスクを個人が単独で予測するよりも、全従業員について大量かつ多年にわたるデータを、会社の産業医や保健師が集積・管理して解析しておけば、個人情報と比較する事でより精度の高い予測ができ、密度の濃い健康指導や適正配置ができる。すなわち個人健康情報はそれを最も有効かつ効率的に扱える者が責任をもって管理運営すれば、ひいては個人の利益に結び付く、というもので、この考えは事業者が労働者の安全や健康に責任を持たなければならない、とする労働安全衛生法の理念に由来すると思われる。

 この様に個人健康情報の扱い方に限定しても、さまざまな立場により、医療情報の取り扱いに対する考え方は大きく異なるが、いずれもPHRの理念という範疇から逸脱していないと思われるし、どの方向性も今後の個人健康情報施策を考える上で必要不可欠だと思われる。
 記憶媒体はいまだにムーアの法則のペースを落とす事なく大容量化を続けており、情報保管のスペースとコストは益々小さくなっている。それに加えてAIやIoTの技術はわずか3年ほどで爆発的に進化した。以前は不可能と思われた様々な情報活用がわずか数年で夢から現実となっている。今の世は多少実現困難と思われても、各担当者が出来る事から着実に実践すれば早晩報われることも多い。色々とチャレンジしたいものである。

第6回PHR協会講演会(2018年2月15日(木)東京)を開催いたしました。

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